NAKAI

 

「エアロプレス」という新しいコーヒーの抽出方法をご存知だろうか。

 

淹れ方でこんなに変わるものかと驚くほど、香り豊かな一杯を楽しめる。

 

coffee stand

 

用いるのは、注射器のような形状の器具。
チャンバー(管の部分)にコーヒー粉を入れて湯を注ぎ、しかるべき回数だけかき混ぜる。

 

「この回数を少し増減させるだけでも、味わいが変わるんですよ」

 

プランジャー(円筒形の部品)を差し込み、ゆっくりとプレスする。

 

 

方法としてはとてもシンプルだが、おいしいコーヒーを淹れるための様々な条件を兼ね備えている。

 

「お湯を上から注ぐペーパードリップ方式だと、豆の味わいを引き出すまでに時間がかかります。
僕は長年コーヒープレス(=フレンチプレス)で淹れていましたが、飲むときにコーヒーの微粉がカップの底にたまるのが気になっていました。カップの中でさらに抽出が進み、時間が経つにつれて味が濃くなってしまうからです。

 

エアロプレスは空気を圧縮して抽出するので、豆の味わいを手際良く引き出すことができますし、フィルターを通すので微粉が残ることもありません。
抽出にかかる時間も1〜2分と、とても速いのです」

 

一つの欠点も見当たらないような方法だが、豆の味わいを引き出すという点においては諸刃の剣でもある。

 

「その豆が持つ個性が全面に出るので、良質な豆を使えば最高においしいコーヒーが飲めるのですが、質が良くないものや鮮度の低い豆で淹れると、それもしっかり表れてしまう。隠しようがないんです。抽出器具が豆を選ぶとも言えます」

 

 

上原司さんが営む THE COFFEE STAND は、那覇市公設市場のすぐ近く、アーケードの中の一角にある。店構えは小さいが、訪れる人はひきもきらない。

 

市場で働いていると思しき男性客がやってきた。

 

「いつもの、お願いね」

 

「すみません、今ちょっと注文が立て込んでいて…。
お待たせすることになっちゃうかもしれないんですが、大丈夫ですか?」

 

「そっか。じゃあしばらく経ってから来ようかな」

 

「申し訳ございません」

 

上原さんは必ず、注文を受けてから一杯ずつ丁寧に淹れる。
大量に作り置きしたコーヒーを注ぐだけというスタイルではないため、エアロプレスのスピードをもってしてもそれなりの時間が必要だ。
そして、こちらの味を知った多くの人がリピーターとなり、次から次に人が訪れる。

 

しかし、どれだけ多くの注文が入っても、上原さんがコーヒーを淹れる手順や丁寧さは変わらない。
かかる時間を申し訳なさそうに告げるだけだ。

 

それでも客足が途切れることはない。
求められているのは早く出てくるコーヒーではなく、おいしいコーヒーなのだ。

 

そのおいしさの理由は、抽出方法以外にもある。

 

「当店では、スペシャルティーコーヒーだけを使用しています」

 


 

スペシャルティーコーヒーとは、世界で流通するコーヒーのうち、わずか5%ほどしかない良質な豆を指す。

 

「小さな地域や現地の組合、各農園というように産出場所を細かく区切り、専門機関が選り分けています。
豆の甘さ、酸味、口に含んだときの質感や風味、後味やバランスといった厳しい基準に合格したものだけが選出されるのです」

 

この日の「本日のおすすめ」は、エルサルバドルのエルカルメン農園の豆。

 

一口飲めば、その違いは明らかだ。

 

爽やかな酸味に、まろやかな口当たり。
のどごしにも特徴がある。ひっかかるような苦みがなく、甘く香ったかと思うとすーっと消えていく。
フルーティーな味わいに、コーヒー豆が果実であるという事実を思い出す。

 

「非常にバランスの良い豆です。
レイン・フォレストアライアンスの認証も受けており、珍しい野鳥が観察できるほど自然環境の整った農園で産出されています」

 

豆へのこだわりをゆっくり語る時間がとれないため、特性を記したメモをカップに貼って出している。

 

「お客様にも豆のことを知っていただきたくて」

 

 

コーヒーの道を歩み初めて14年経つという上原さんは、以前はインテリア雑貨店を経営していた。

 

 

「当時、仕入れのために東京や福岡に行くと、インテリアショップにカフェが併設されているところをよく見かけました。そういう店が沖縄にはなかったので、『僕もカフェの勉強をしないといけないな』と考えていたんです」

 

兄と共にコーヒーショップをやろうと考えたが、二人とも別に店舗を運営していたため、移動販売から始めることにした。

 

「とはいえ、兄貴も僕もコーヒーの知識などゼロに等しい状態でしたし、当時はコーヒー専門店も少なく、関連書籍も見かけなかった。
そこでとりあえず良い豆を取り寄せ、自分たちで淹れてみることから始めたんです。
やってみると、豆の挽き方一つ、淹れ方一つで味が大きく変わることがわかりましたが、どれが正解なのかが分からなかったんです。というのは、まず周囲においしいと評判のコーヒー専門店がなかったから。そして、僕も兄もコーヒーを飲まない人間だったからです(笑)」

 

コーヒー好きが高じて店を出したのだろうと思い込んでいたので、この一言に驚いた。しかし、コーヒーに対して強い思い入れがなかったことが、店の方向性を決定づけることになった。

 

「兄と二人で淹れ方を研究していたときに思ったんです。コーヒーマニアにウケる味ではなく、一般の人に喜んでいただけるように淹れようと。
そう考えると、俺たちちょうど素人じゃん、俺たちがおいしけりゃいいんだ、他の店なんて参考にする必要ないんだ! と気づいて」

 

メニューも値段も先に決まっていたが、肝心のレシピが固まるまで時間がかかった。研究を重ねていたある日、ふたりが「おいしい!」と口を揃える一杯がついに生まれた。

 

「これでいこう!と言って、翌日から販売を開始しました」

 

今から14年前、一般的なコーヒーショップの運営方法や使用している豆についてなど何も知らぬまま始めた移動販売店だったが、あっという間に人気に火がついた。

 

「夕方から夜にかけて販売していたのですが、平日は30~40分待ち、週末になると1時間待ちも珍しくないほど多くの方に来ていただきました」

 

当時から一杯ずつ丁寧に淹れるというこだわりを貫いていた。
店を続けていくにつれ、同業者の運営方法も耳に入るようになり、その違いに驚いたと言う。

 

「材料費にかけている金額がまったく違うんですね。
僕らがおいしいと思う豆はそれなりの値段がするわけですが、おいしいのだからそれを使うしかない。
コーヒー一杯淹れるのに使用する豆の量も、他店に比べるとすごく多いのだと途中で気づきました」

 

味わいだけを追求しながら手探りで始めたからこそ、妥協のないこだわりのコーヒーが生まれた。そして、多くの人に愛されたのだ。

 


一番人気のカフェモカ。まずエスプレッソを抽出する。

 


牛乳を泡立てる。30円プラスで豆乳に変更することも可能。

 


ホイップクリームとチョコレートをトッピングして完成。

 

 

濃厚なエスプレッソを、まろやかな味わいで堪能できるカフェモカ。
エスプレッソの香りをしっかりと楽しんだら、ゆっくりとかき混ぜてクリームとチョコを溶かし、大人のスイーツとして楽しむのも良い。

 

「チョコレートってエスプレッソによく合うんですよ。
僕、チョコが大好きで(笑)」

 

そんな上原さんに勧められて以来ハマったと、常連客が語るのがチョコ・ココア。コーヒー豆は使用しないメニューだが、ファンが多い。

 

「もともとコーヒーを飲む人間ではなかった」という上原さんの言葉と、「普通の人が飲んでおいしいと感じるものを」というコンセプトを思い出した。

 

 

4年間の移動販売と他の場所でのコーヒー店経営を経て、上原さんは2011年にこの場所に店をオープンさせた。
沢山の人が行き交う場所。
ともすると見逃してしまいそうなほど小さな店だが、市場の店員、買物客、旅行者…様々な人がやって来る。

 

 

「コーヒーが飲まれている理由は、おいしさだけじゃないのだろうと、最近気づき始めたんです」と、上原さんは語る。

 

「味だけで言うと、おいしい飲み物って他にも沢山あるでしょう? なのに、世界中で多くの人が毎日のようにコーヒーを飲んでいる。コミュニティの真ん中にある飲み物だと思うんです。
だからきっと、コーヒーじゃないといけない理由がおいしさ以外にもある気がする。特別な力を備えているんだろうなって。

 

でも、それ言い出しちゃうと難しくなるので、これからもシンプルにおいしいコーヒーを淹れよう!と。それだけを目指しています」

 

 

私たちはどうしてコーヒーを飲むのだろう。考えてみれば確かに少し不思議だ。
疲れたとき、ほっとしたいとき、スッキリと物事を考えたいとき、何かに集中したいとき…。
つい手が伸びるその飲み物が、できる限り上質であるように。
THE COFFEE STAND は、コーヒーとともに豊かな時間も提供している。

 

写真・文 中井 雅代

 


THE COFFEE STAND(ザ コーヒースタンド)
那覇市松尾2-11-11 1F
080-3999-0145
open 10:00~19:00

 

NAKAI

歩き方美人・振る舞い美人・話し方美人になるレッスン
 
美のスペシャリスト2人のコラボ企画
 
日 時:
①2月14日(木)10:00~12:30
②2月27日(水)10:00~12:30
(日程によって内容は異なります。徐々にステップアップしていく内容となります。)
場 所:てんぶす館 3階 NPO支援センター(国際通り三越斜め向い)
レッスン料:¥3,500 (ペア割引有 お二人様¥6000★1000円お得です)
 
レッスン前半  猫背3秒で解消!美しく立つ&歩いて印象度UP!
→ 美しい立ち姿勢&ウォーキング、 -3kgで写る写真のポイント
講師:ポスチュアスタイリストディレクター 遠藤美絵
 
レッスン後半  目からうろこ!の素敵な振る舞い&マナー
→ 話し方や魅力ある声作り(ヴォイトレ)で好印象
講師:話し方・マナー講師・印象度アップトレーナー 新木いづみ
 
■お問合せ&お申込み先■
遠藤 美絵 tel;090-7219-4093 ✉: mie@posture.co.jp
新木いづみ tel:090-3797-8347 ✉:izumi.aa@ezweb.ne.jp
 
大変恐縮ですが、定員になり次第締め切らせていただきます(15名様予定)
 
*持ち物:携帯(カメラ機能を使用します) 筆記用具
*服 装:ピンヒールや高いヒールは避けて下さい。運動靴が望ましいです。タイトスカート以外の服装でお願いします(足運びもレッスンするため)
*駐車場は、桜坂劇場が格安です(一時間¥100)。てんぶす館は長時間以上は1日パスで格安
 
当日はロイヤルオリオンにてランチ親睦会を予定しています。
ご希望の方は2日前までお申込みください。
 

NAKAI

佐藤尚理
 
セレクトショップでその器を初めて目にした時、とっさに作家の名をスタッフに尋ねた。
作品には強い吸引力があり、見ているだけでドキドキした。
店には数多くの作品が並んでいたが、同じ作家の器を選んで手に取る人を大勢見かけた。
 
「佐藤尚理さんという作家です」
 
その名に聞き覚えがなかった。
 
「芸大を卒業なさった方です。
でも、陶芸家として活動を始められたのは最近だということです」
 
無意識に、卒業して間もない20代の男性を想像したが、詳しい経歴を知って驚いた。
佐藤さんは、芸大の陶芸科ではなく、彫刻科の卒業生だった。
 
佐藤尚理
 
佐藤尚理
 
佐藤尚理
 
「作品で大事にしているのは、全体のバランス。
バランスがとれていないと、『これは失敗だな、自分の好みの器ではないな』と。
その感覚は、彫刻とも通じているかもしれません」
 
佐藤さんはそう語る。
 
愛嬌のあるフォルムも、作品の魅力の一つだ。
 
「あまり重くならないよう、分厚くなりすぎないように気をつけています。
そして、できるだけヘンな形になるように。
可愛いとかじゃなく、ヘンな形」
 
佐藤尚理
 
佐藤尚理
 
佐藤尚理
 
佐藤尚理
 
最近はろくろを使わず、手びねりで制作していると言う。
 
「作るときにあらかじめ決めているのは、器の大きさや容量くらい。
あとは手を動かしながら、という感じでしょうか。
図柄も、最初は何も決まっていないんです。
焼き上がった器を並べて順番に絵付けしていくのですが、その瞬間に考えます」
 
 
佐藤さんは長野県長野市の出身。
芸大を受験したのは、父親の影響が少なからずあると語る。
 
佐藤尚理
 
佐藤尚理
 
佐藤尚理
 
「父は幼児教育について学ぶ学校で、美術の教師として勤めていました。
僕自身は芸術にそれほど深く興味があったわけではないので、きっかけと言えばやはり父の存在かなと思います。
彫刻を選んだのにも特に大きな理由はなく、ダイナミックなことがやりたくて」
 
強い想いがあったわけではないと話すが、大学生活はとても楽しかったと言う。
 
「大学生と言えば立派な大人。そんな大の大人が毎日トントン・カンカンやっていて許されるなんて、普通ではありえないわけですよ。
授業では、溶接したり木工やったり。素材も鉄、木、テラコッタ、粘土…色んなものを触らせてもらえました。
大学院に進んだのはそういう毎日が楽しかったから。もうちょっとやりたいと思ったんです」
 
しかし、進学を前に佐藤さんは迷いを感じていた。
 
「その頃すでに、陶芸もやりたいと思っていたんです。
土いじりが仕事になるのがうらやましくて(笑)
陶芸をやっている知り合いを見ても、一日中泥だらけで、なんだか楽しそうだなーと。
 
それに、以前から壺屋や読谷の陶器市で器を買うのも好きでした。
陶器に興味を持ったのは沖縄に来てからですが、思えば長野の実家でも父が学校の授業で作った器を使っていたんです。
作家ものとは言えないけれど、美術教師である父手製の器。
その手触りはよく覚えています。
つるつるとしていない、独特な触感を」
 
しかし結局、佐藤さんは彫刻科を選択した。
院を修了した後は大学に残り、6年ほど助手として勤めた。
 
佐藤尚理
 
佐藤尚理
 
佐藤尚理
 
佐藤尚理
 
佐藤尚理
 
佐藤尚理
自宅の一角をギャラリーとしてオープン。妻・真琴さんの作る焼き菓子なども並ぶ予定だ。
 
佐藤尚理
 
助手をやめたあと、1年ほどドイツに滞在。
2008年に帰国し、南城市に自身のアトリエを構えた。
 
「建物を建てるのは初めてでしたが、わからないことは調べながら、どうにか完成しました」
 
佐藤尚理
 
佐藤尚理
中は陶芸のための部屋と、彫刻や木工のための部屋に分かれている。
 
佐藤尚理
 
その出来を見た人々から、内装工事の依頼が入るようになった。
 
「最初が水円の森下夫妻、それからshoka:さん、tenさん、個人宅…という風に、ぽつぽつとお願いされるようになって」
 
工事の仕事で忙しい日々を過ごしながらも、佐藤さんは陶芸への思いを抱き続けていた。
手始めに陶芸教室に通おうかと考えていた矢先、大学時代からの友人である増田良平さん(関連記事:料理を食べ終えた後もテーブルを彩るうつわ。丹念に観察した身近なものをテーマに。)がやって来て言った。
 
「『よかったら、僕が教えるよ』と。
そうしてろくろの前に座り、ピューピューピューッと器を作って、『こんな感じ』。
勝手にピュっとやって帰っていくだけ(笑)。
それを見て、あとは自分でやってみる。
また、釉薬(ゆうやく)がうまくつかないとか、溶けないとか、化粧土がはがれるとか、うまくいかないことがあって電話をすると、『アレを入れたらいいよ』。
 
化粧土の作り方は、友人の東恩納美架が教えてくれて、『アレを溶いたらいいよ』。
そうやって色々と教えてくれて」
 
いつか自分の器を販売できたらと考えてはいたが、それまでには時間がかかったと言う。
 
「僕だったら買わないな、と思うような器を世の中に出したくないんです」
 
2012年9月に mofgmona no zakka(関連記事:生活空間で選ぶうつわ。独自の視点でうつわの魅力を引き出す。)に置いたのが最初だと言うから、まさに新進気鋭の陶芸家だ。
 
 
作品を展示販売する「BONOHO(ボノホ)雑貨店」店内には、佐藤さんによる彫刻の作品も飾られている。
 
佐藤尚理
 
佐藤尚理
 
佐藤尚理
 
佐藤尚理
 
佐藤尚理
 
陶芸作品と共通点があるかと問われたら、正直に言うとよくわからない。
一見して同一人物の手による作品だとわかるほどの共通点は、見受けられないような気がする。
 
しかし間違いなく言えることは、彫刻に打ち込んだ年月がなければ、今の器には至っていないだろう。
そしてまた、陶芸に費やした時間が逆に彫刻に影響を与えるのではないだろうか。
佐藤さんは「今後は彫刻もやっていきたい」と話す。
 
「小さいものでもいいから、いずれまた作りたいと思っています。
でも、陶芸もまだ充分ではないから、それをしっかりやってからの話ですね。
ゆくゆくは陶器の彫刻も作ってみたいと思っているんです、木彫だけじゃなく。
それに金属もやってみたいし…」
 
佐藤尚理
 
陶芸と彫刻。
ジャンルは違えど、元をただせば同じ「ものづくり」。
つくること、表現することに夢中な人が、それまでとは違う方法で表現してみたいと考えることは、不思議なことではないのかもしれない。
 
作風はどんどん変化していると佐藤さんは言う。
 
「数ヶ月前と今とでも全然ちがうんですよ。
変わりやすい時期なのかもしれません」
 
二つのジャンルで技術を磨いた作家は、新たな世界を求め続ける。

表現は自由なのだ。
そうして生み出されたものが、こんなにも心を打つ。
 

写真・文 中井 雅代

 
佐藤尚理
utsuwa+喫茶 bonoho(ボノホ)
2月16日オープン
南城市佐敷手登根65番地
098-947-6441
open 土・日 11:00~18:00
メールアドレス:bonoho@hb.tp1.jp
 
※手作り市など出店のため不定期に休みを頂いております。
ご確認の上お越し下さい。
※ 2月16日 イベント(ヨガ)のため13:00からオープン
 

 

NAKAI

ブルックリン
(新潮文庫) ポール・オースター・著 柴田元幸・訳 新潮社 ¥2,415/OMAR BOOKS
 
最近耳にして、心に残っているウディ・アレンの言葉。
 
“ 90% of life is just being there. ”
 
人生の大半はただそこにいること。そこにいるだけでいい。
深い肯定の言葉。
 
そして今回紹介する『ブルックリン・フォリーズ』はもうすぐそこからいなくなる人のお話。
 
物語の舞台はブルックリン。余命あとわずかを宣告された中年男性が、静かに人生を振り返ろうと幼い頃過ごした街に戻ってくるところから始まる。
 
「フォリーズ」とは主人公ネイサンが、自分がこれまで生きてきた中で起こした愚行の数々を書き綴ることにした書のこと。
思い出して赤面するような恥ずかしいこと、人を傷つけ、傷つけられたこと、馬鹿馬鹿しくて笑えること。残された日々をせめて面白おかしく生きようと、甥のトムを巻き込んで話は意外な展開に転がっていく。
 
オースターの待ちわびた長編小説。
代表作『ムーンパレス』を彷彿とさせるストーリー展開に、同じく魅力的な登場人物たち。相も変わらず、世間でいったらどうしようもない、滑稽で情けない無名の人々。でもだからこそ愛おしいと、読めば読むほど著者の愛情が伝わってくる。
 
家族との不和、愛情のもつれ、善良な人に訪れる不幸、最愛の人との別れ、など章ごとに「LIFE」に訪れる様々な出来事。誰しも経験したことのあるような、生きていると避けては通れない局面がオースターならではのユーモアを交えて描かれる。
 
ブルックリン、という街で新しい生活を始め、その街で暮らす人たちと絆が結ばれていく中で、未来に絶望していたネイサンに次第に変化が訪れる。
 
そして長い物語の最後の章。
ああ、このことを伝えたくて著者はこの小説を書いたんだ、と強く胸を打たれた。ペンで出来ることはこういうことなんだと深く感動した。作家の自己表明が最後の最後に示される。
 
もしこの本を読み始めたら、どうしても最後まで読んでほしい。
人生のエッセンスがぎゅっと詰まった、あらゆる人に読んでもらいたい極上の小説です。

OMAR BOOKS 川端明美




OMAR BOOKS(オマーブックス)
北中城村島袋309 1F tel.098-933-2585
open:14:00~20:00/close:月
駐車場有り
blog:http://omar.exblog.jp
 

NAKAI

maybe bakery

 

「クロワッサンって、生地が層を成してるんだ…」
一口食べて、そのことを強く実感した。
外はカリッと香ばしく焼かれ、幾重にも重なった生地には弾力がある。

 

「サクサク・フワフワというより、外はザクっ、中はモチモチとした食感になるよう、皮は厚めに作っています」

 

確かに噛みごたえはあるが、硬いわけではない。
ほどよい歯ざわり。
生地の食感を楽しんでいると、次第に「じゅわっ」と何かがしみだしてくる。
生地と交互に重ねられたバターだ。
「パサパサした食感」というイメージを覆す、ジューシーなクロワッサン。

 

「バター100%で作っています。
バター以外の素材にもこだわっていて、例えば、チョコレートはカカオから自分で作っているんです」

 

maybe bakery

 

maybe bakery
maybe bakery

 

「板状のチョコレートを溶かして使うのではなく、カカオを使って手作りしているので、苦みや甘みの度合いを自分で調整できるんです。使用するパンによって大人っぽくビターに仕上げたり、甘めにしたり。

 

アップルクランブルデニッシュはりんごを煮ることから始めますし、スウィートポテトデニッシュでは市販の芋あんは使いません。さつま芋から作った自家製スウィートポテトを乗せて焼いています」

 

maybe bakery

 

maybe bakery
maybe bakery

 

レモンデニッシュという珍しいメニューについ手が伸びた。
爽やかな酸味のあるクリームが、コクのあるデニッシュ生地によく合う。

 

「シチリアから取り寄せたレモンジュースを使い、レモンクリームを手作りしています」

 

手間を惜しまず、おいしさを追求する。
安全性も折り紙付きで、添加物は一切使用していない。
天然酵母パンなどのナチュラルブレッドも人気だ。

 

maybe bakery

 

maybe bakery

 

maybe bakery

 

店のコンセプトは「自分へのごほうび」。

 

「うちのパンがお客様のお気に入りの一つになったら嬉しいです。
『明日はお休みだから、maybe bakery でパンを買って帰ろう』という風に」

 

2012年10月にオープンし、わずか4ヶ月。
すでに足繁く通うファンも多く、リピート率も高い。

 

「沖縄は、東京に負けずとも劣らぬパン屋の激戦地区。
2年ほど前に旅行で沖縄を訪れたのですが、その頃と比べると格段に店舗数が増えているので驚きました。
どのパン屋にもそれぞれの個性があると思うので、当店の個性とお客様のニーズとのバランスを考えながら店づくりをしていきたいですね。
『私の求めているパンがここにある』と思っていただけるように」

 

maybe bakery

 

maybe bakery

 

オーナーの大澤正之さんが東京から沖縄に移住してきたのは2012年2月。
ベーカリーショップをオープンさせる土地として北谷を選んだのには理由があった。

 

「東京でもヨーロッパスタイルのパンを中心に作っていたので、北谷という土地だと受け入れてもらいやすいのではと思ったんです。特にアメリカの方に好みを合わせてパンを作っているわけではありませんが、外国人のお客様も多くいらしています」

 

ビビッドカラーで彩られたアメリカンスタイルの店が立ち並ぶ北谷において、maybe bakery の店構えや店内の雰囲気は異彩を放っている。
落ち着いた色調の欧州風の内装、ハイセンスな空間に並んだ数々のヨーロッパスタイルのパン。

 

「店内にはイートインスペースも設けました。
お子様連れのお客様や、コーヒーとともにゆっくりパンを味わいたいという方にもお勧めです」

 

アラハビーチまで徒歩数分という立地で、朝7時からのオープン。
焼きたてのパンを片手にビーチまで歩き、朝の静かな浜辺を散歩しながら味わうという楽しみ方もある。

 

「僕も浜辺で食べたことがあります。
沖縄ならではですよね、すごく気持ちがよかった」

 

maybe bakery
ドリンクも販売しており、ホットコーヒーは1杯180円で提供している。

 

maybe bakery

 

maybe bakery
maybe bakery

 

maybe bakery
食事系のパンも大好評だ。「はみ出すほどの大きさのベーコンを挟んだバゲットも人気なのですが…売り切れちゃいましたね」

 

maybe bakery

 

maybe bakery

 

maybe bakery

 

ラズベリーショコラやブルーベリーベーグルなど、オープンしてから考案された新作も多いが、今後は県産品を使ったパン作りにも取り組みたいと言う。

 

「スウィートポテトデニッシュを、紅芋で作ってみたらおいしそうだなぁと考えていて。
また、米粉のパンやごぼうサラダのサンドイッチ、チョコレートのクグロフなども新作として登場予定です」

 

リピーターになる人の気持ちがよくわかる。
種類が豊富なので、一度で全種類を制覇するのは難しい。厳選して購入するも、その全てがことごとくおいしいので、「やっぱりアレも買えばよかった…。次こそは!」と、その日買ったパンを頬張りながら、すでに次の機会を待ちわびてしまう。

 

求めやすい価格も嬉しい。
毎日だって自分へのごほうびを買いたくなる。

 

北谷に佇むヨーロッパスタイルのベーカリーは、今日もあなたのためにこだわりのパンを焼いている。

 

写真・文 中井 雅代

 

maybe bakery
maybe bakery(メイビーベイカリー)
北谷町北谷2-18-6
098-911-6923
open 7:00〜19:00

 

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NAKAI

砂漠でサーモンフィッシング
 
これはおすすめ。
 
キャスティングが良い。
 
そしてポスターがかわいい。
 
OUTFIT(=着こなし)も素敵。
 
セリフも面白い。
 
イエメンで鮭??という途方もないお話ですが、このイエメンの大富豪がとっても人格者でチャーミング、そしてハンサム。ここ重要。
 
砂漠でサーモンフィッシング
 
砂漠でサーモンフィッシング
 
「信じる力」って結構あると思う。
 
とんでもないプロジェクトだけど、信念があれば、うまくいくのではないか?
 
信じる力がないと何も始まらない。
 
また、この投資コンサルタントを演じるのが、エミリー・ブラント。
 
砂漠でサーモンフィッシング
 
砂漠でサーモンフィッシング
 
砂漠でサーモンフィッシング
 
砂漠でサーモンフィッシング
 
素敵よね~。
どんどんきれいになっていく気がします。とにかくお洋服がかわいい。
 
で、肝心な博士を演じるのはユアン・マクレガー 。
多才だねえ。コメディもそつなくこなす。
 
砂漠でサーモンフィッシング
 
クリスティン・スコット・トーマスも抜群です。
 
砂漠でサーモンフィッシング
 
砂漠でサーモンフィッシング
 
途中、エミリー・ブラント演じるハリエットの恋人が戦地に行ってしまうとか、ユアン・マクレガー演じるフレッドが妻と離婚の危機とか、そのあたりもいろいろ絡んでくるんだけど、この二人は絵的にも相性いいです。
 
 
こんなプロジェクト面白そうだよね。
 
私は、去年からもちこしているプロジェクトを現在抱えてるんだけど、こんなに面白くないなあ。
 
信じることって大事なんだよね。
 
人生長く生きていると、やっぱりどこか冷めてしまったり、あきらめてしまったり。
でもそれでは奇跡は起きないよね。
 
奇跡を起こすにはまず信じて行動すること、それを忘れないようにしたい。
今年は奇跡を起こすぞ(笑)
 
爽やかで、クスリと笑える映画ですよ。そしてオシャレ。おすすめです。
 

KEE

 

 
<ストーリー>
「イエメンでサケ釣りをしたい」という依頼を受けた水産学者のジョーンズ博士(ユアン・マクレガー)。そんなことは絶対無理だと相手にしなかったものの、何とイギリス外務省後援の国家プロジェクトに発展。ジョーンズは、イエメンの大富豪の代理人ハリエット(エミリー・ブラント)らと共に無謀な計画に着手する。
 
<キャスト>
ユアン・マクレガー
エミリー・ブラント
クリスティン・スコット・トーマス

 
<沖縄での上映劇場>
MIHAMA 7 PLEX+ONE
098-936-7600
中頭郡北谷町美浜8-7
HP:http://www.startheaters.jp/mihama7plex

NAKAI

Day1
沖縄 スナップ
トップス、靴ともに:mystic
パンツ:不明
帽子:BEAMS
 
沖縄スナップ
バッグ:不明
 
沖縄スナップ
ネックレス:forever21
 
Day2
沖縄スナップ
トップス:SPINNS(スピンズ)
スカート:WEGO(ウィゴー)
 
沖縄スナップ
ネックレス:BEAMS
 
沖縄スナップ
時計:NIXON
 
Day3
沖縄 スナップ
パンツ:不明
スカート:不明
靴:GLOBAL WORK
靴下:tutuanna(チュチュアンナ)
 
沖縄スナップ
トップス:BEAMS
ネックレス:BEAMS
 
沖縄スナップ
バレッタ:GARAGE HOUSE (ガレージハウス)
 
沖縄スナップ
時計:DIESEL
 
Day4
沖縄スナップ
ショートパンツ:デニムを自分でカットしたもの
トップス、ブーツ、帽子ともに不明
 
Day5
沖縄スナップ
ワンピ:OZOC
ジャケット:SPINNS
ブーティー:不明

 
沖縄スナップ
 
沖縄スナップ
ネックレス:BEAMS
 
 
 
「私、肩幅広いんですよ」
という一言を耳にするまで、まったくそのことに気づかなかった。
コーデで体型をカバーするのが上手!
 
「本当ですか?! よかった~。
普段から、肩幅を強調するような服は買わないようにしてます。
シャツはほとんど持ってないかも。
着るとしてもボタンを外して、襟元を大きめに開けるんです。
首周りがきゅっと詰まった服は、どうしても肩幅が目立っちゃうので。
パフスリーブも要注意。
色やデザインによってはごつく見えちゃうことがあるんですよ」
 
アパレル関係に勤務する伊波さん、さすがのコーデ分析力。
 
「仕事柄、ファッション雑誌は結構読んでいます。
『スナップ特集』なんて書いてあると必ず手にとりますね。
雑誌のコーデを参考にすることも多々。
ちなみに、DAY1のコーデは雑誌を真似っこしました」
 
 
以前はゆったりとしたラインの服が多かったという。
スタイル抜群なのにもったいない!
 
「当時はそういう服が流行ってたんです。
でも今は、トップスがゆるめの時はショートパンツにして脚を出したり、身体のラインが見えるようにしています」
 
どのコーデも格好よくキマる171cmという身長は羨ましく感じるが、高身長ゆえのお悩みも。
 
「あんまりカラフルすぎる服を私が着ると、悪目立ちするというか…。
なので、あまりに派手な服は買わないですね。
 
実は、黒い服ばかり着てた時期もあったんですよ。
自分では意識して買っていたわけではなかったので、友だちに『黒好きだよねー』と指摘されてびっくり。
今思うと、身長を気にしてすっきり見せる色を無意識に選んでいたのかも…。
それからですね、黒以外の服を買うようになったのは。
 
最近気になる色はライトグレー。
大人っぽく着こなしたいんだけど、一歩間違ったらおばあちゃんみたいになりそうな色なので、研究中です」
 
 
長所に思える体型や外見も、本人にとってはマイナスに感じる時もある。
伊波さん曰く、ナチュラル系の服装に挑戦するのも抵抗を感じるんだとか。
 
「この身長で…って思っちゃうんですよね」
 
つまり、「高身長でないからこそ着こなせるコーデもある」ということか。
 
自分の体型や見た目に対する不満は多かれ少なかれみんな抱いているのでは?
でも、アイテム選びやコーデ次第で、そんな短所を長所に変えることもできる。
 
伊波さんのようにスラリとしていれば、大人っぽいスタイルは文句なくハマるし、カジュアルな服装も格好よく決まる。
小柄さんだと、ナチュラルな服装は可愛らしく着こなせるし、色づかいが鮮やかなアイテムも問題なし。
 
体型を変えようとダイエットして頑張るのも素敵だけれど、「今の自分」に似合うコーデを探すのも楽しいはず。
 

写真・文 中井 雅代

 

NAKAI

増田良平
 
「絵を描くのが苦手で、ずっと避けてたんです」
 
陶芸家・増田さんのその言葉は、正直なところ意外だった。
 
大胆な筆づかいと豊かな色彩に一瞬で目を奪われ、どの器にも増田さんが色や形で自由に遊んだ痕跡がありありと残っているように感じ、見ているだけで楽しい気分になったから。
 
「絵を描くのが心から楽しいと感じられるようになったのは、ここ数年のことなんです」
 
 
増田良平
 
増田良平
作品名は「ヒューストン」。「雲のかけらがヒューっ、ストン! だからヒューストン(笑)」
 
「以前はやめどきが分からず、しつこく頑張って描いていたんですが、それが作品に出てきてしまうと良くない気がして。
心がけているのは、ひとつのものを楽しい気持ちのままで作り終われるようにすること」
 
楽しく終われる加減に気づくきっかけとなったのが、年賀状やお礼状だと言う。
 
「僕、年賀状や礼状を書くのが好きなんですよ。
その時に描くような絵は、『下手だけどまあいいか』くらいの気持ちで描けますよね。
そうやって描き続けていくうちに、『あー、僕が描けるのはこれくらいなんだ』というのがだんだんわかってきたんです」
 
自分の基準を設けたことで、楽しくつくり上げる感覚が少しずつ身についてきたと増田さんは言う。
 
「今の自分にないものは作品には出てこない。
それに、僕自身が楽しく作らないと良いものはできない気がするんです」
 
絵付けの際、増田さんが下絵を描くことはない。
 
「まず、下絵が上手に描けないし、描けてもそれをマネして作る作業がどうも嫌で(笑)」
 
生き生きとした趣きの理由は、ここにもあるのかもしれない。  
 
増田良平
 
増田良平
 
増田良平
 
増田さんの器はどれも、強い存在感を放っている。
完成度の高さがひしひしと伝わってくるのと同時に、にやりとほくそ笑んでしまう楽しさや、思わず手を伸ばして触れたくなるような親近感にも満ちている。
 
「皿って、上に盛ったものを食べ終わると残骸になってしまうでしょ? それがイヤなんです。食後に『残骸感』が出ない器をつくるよう心がけています。
 
でも、『作品作るときなにも悩んでないでしょ』と、よく言われるんですよ(笑)
それは僕にとって褒め言葉です。
悩みが見える器で、ごはんを食べたくないでしょ」
 
どっしりとした印象ながら、余計な力みを一切感じないフォルムも特徴的だ。
 
「でも、一旦手を動かし始めたら使いやすさしか考えません。
…意外ですか?(笑)」
 
増田良平
 
増田良平
 
周囲を畑や木々に囲まれた気持ちのいい場所に、増田さんの工房がある。
 
増田良平
 
増田良平
 
工房の奥には、素焼き前の作品が並んでいた。
 
増田良平
 
増田良平
 
「最近の作品は、息子の絵本に描かれていた絵を見ていてひらめいた方法で作っています」
 
古新聞をはさみで切ってパーツを作成。
それに色を塗って器に貼り、しばらく置いてはがすと、色と形がそのまま器に写るという。
 
増田良平
 
蝶、鳥、花、木、魚…。
ギャラリーの棚に並ぶ数年前の作品と比べ、最近の作品は動植物の模様をあしらったものが多い。
 
「自分が実際に見た物を絵にすることが多くなってきました。
昨年夏は、羽化の瞬間を見たくて、自宅の庭に集まっていたタテハモドキという蝶をよく観察してたんです。でも、セミの羽化は30分ほどかかるのに比べ、蝶はわずか5秒。ちょっと目を離したすきにもう羽を乾かしていて。
絶対に羽化の瞬間を見届けてやる!と、自分で20羽くらい育てました(笑)。
初めて見たときはものすごく感動しましたね」
 
時間をかけて見たものは、頭の中でイメージしやすいので、形や模様も作りやすいと言う。
 
「時間がゆるす限り、今後も身近なものをじっくり観察し、創作に生かしたいと思っています」
 
 
陶芸家として多くのファンをもつ増田さんだが、大学受験の直前までスポーツ漬けの日々を過ごしていたという。
 
増田良平
 
増田良平
 
増田良平
 
「ラグビー部に所属し、高校三年生の11月まで活動してたんです。
引退してから『進路、どうしよう?』と。
当時、建築を専攻していた兄がすごく楽しそうだったので、その影響で『自分も何か作る仕事をしたい』と考えました。
 
でも、思い返すと小学生の頃から図工が苦手。手先が不器用だったんです。
紙工作はうまく作れないし、木工だと隙間があく。
だけど、粘土だけは楽しかったことを思い出して。
粘土なら、ちょっと間違っても押したりひっぱったりすれば形を整えられるでしょ。
それで『じゃあ、陶芸かな?』と」
 
しかし、芸大や美大と言えば合格は狭き門。受験に備えて数年前から予備校に通う生徒も少なくない。
受験が目前に迫った12月から予備校に通い始めたが、周りとの実力差に愕然としたと言う。
 
「デッサンの授業で自分で描いたものを教室に貼るのですが、何も考えずにど真ん中に貼ったんですよ。
すると、僕の作品だけがまるで白紙のように見えて。
つまり、しっかり描き込まれた他の生徒の作品と比べると、僕のは描いている線自体が圧倒的に少なかったんです。
 
がっくり肩を落として帰って来たんですが、たまたま見ていた全国高校ラグビー大会のテレビ中継で、ある監督が言っていたんですよ。
『今やらずして、いつやる!』
って。
その一言で一瞬でやる気に火がつきました(笑)
 
考えてみたら最初がそのレベルだから、あとは上手くなっていくしかないわけでしょう?
周りは長く通っている生徒ばかりで、中には受験までにスランプに陥ってしまう人も少なくなかった。
僕の場合はずっと右肩上がり、受験当日がそれまでの人生で一番絵が上手いはずなわけです(笑)。
 
実際の試験でも、『今日いい感じ〜。今までで一番良いじゃん!』って」
 
わずか1ヶ月の予備校通いを経て、増田さんは見事、沖縄県立芸術大学 美術学部陶芸専攻に現役合格を果たした。
 
増田良平
「沖縄の一般的な『蹴(け)ろくろ』よりも高さがあるので、背筋をすっと伸ばしてひけるところが気に入っています」 友人が特注で作ってくれたものだと言う。
 
増田良平
 
芸大に入学した生徒の多くが、1年目の授業をつまらなく感じるという話を聞いたことがある。
 
「人体デッサンやスケッチ、石彫りといった基礎をみっちりやるのですが、ほとんどの生徒は予備校でいやになるほどやってきてるからでしょうね。
 
でも、僕にとってはすべてが初めてのことばかり。何をやっても楽しかった。
今思うと、スポーツ経験も関係していたのかもしれません。
良いものができるまでとことん作るという授業もあったのですが、どれだけろくろをひいても、何個作っても苦にならなかったんです。
スポーツには地道な繰り返し練習がつきものですから」
 
大学時代、増田さんはその後の人生を左右する人物とで出逢うことになる。
当時、芸大で教鞭をとっていた大嶺實清先生だ。
 
「大学四年の時でした。先生がアメリカの大学でサマースクールの講師を務めるため、助手を募集していると知って。
面白そうだし良い経験になりそうだったので、卒業制作を数週間で終わらせ、助手に志願したんです」
 
同じく芸大の学生だった山田義力さん(関連記事:「良いもの」であること、今の生活に入っていける器であること。)も共に先生に同行、アメリカとメキシコに約1ヶ月間滞在した。
 
「まさしく珍道中でしたね。
アメリカでは料理の味が濃すぎて僕はあまり食べられなかったのですが、先生や義力さんらはさすがウチナンチュ、よく食べて少しずつ顔も丸くなっていって(笑)。メキシコに行くと僕はメキシコ料理が気に入ったのですが、ウチナンチュチームは『あふぁい(=味が薄い)』『日本料理が食べたい』と。そこで現地の日本料理屋に行き、みんなお腹を壊したという(笑)」
 
増田良平
 
増田良平
 
増田良平
 
大学院を修了後、増田さんはしばらく老人福祉センターで陶芸教室の講師を務めていた。
これを一生の仕事にしていくのは難しいだろうと考えていた矢先、大嶺先生の工房に空きが出たという連絡が入った。
 
「独立したいとも考えていましたが、当時はまだ作る力が足りないと感じていたので、働かせてもらうことにしたんです。
 
それによって力不足が解消できたかというと、少しましになった程度だと思います。

でも、工房で働いたおかげで、数に対する恐怖心はなくなりましたね。
最初のうちは『器を100個作れ』と言われると『100個?! 』とひるんでいましたが、最後はまったく動じなくなっていましたから」
 
2004年に東風平で独立開窯したが、最初のころは、自身の作品と自分のやりたいこととの間にずれを感じていたと言う。
 
増田良平
 
増田良平
 
増田良平
 
増田良平
 
増田良平
 
「上手く作れてはいるけれど、何か足りないという気持ちを感じていました。
工房でのやり方が身についていたので、無意識のうちにそれが出ていたんですね」
 
もっと自由に作りたいという思いから、増田さんは徐々にやり方をかえるのではなく、方向性を大きく転換しようと考えた。
 
「わざと大きく振ったんです。振り切ろうとしたんですね。
どうにか自分らしさが出せるようになってきたのが、それから3年後くらい。
3年かけて身につけたものから独自の方向性を見出すには、やはり3年かかるんだなと思いました」
 
増田良平
窓辺に飾られているのは増田さんと息子さんがつくった鳥。「右が息子の。すごい良いでしょ。尾なんかピンと伸びちゃって、なかなかこういう風には作れないよね。それと比べると、俺のなんて全然だめだな」
 
増田良平
 
増田良平
 
増田良平
 
増田さんの子どもの頃の夢は、花火師だったと言う。
 
「でも親父に『世襲制だぞ』と聞いてあきらめました。
そもそも花火師になりたいと思ったのは、みんなを喜ばせることがしたかったから」
 
増田少年が抱いていた夢は今、充分にかなっていると言えるだろう。
 
 
今後の展望を尋ねると、「地面からそのまま生えているような器を作ってみたい」と答えた。
 
「イメージだけでいうと、息子がつくった鳥のような、地面からそのまま生れ出たかのような器。
だから、これから地面をじっくり観察しないと(笑)」
 
時に子どもが持つような伸びやかな表現力を感じる増田さんの作品。

それらを見ていると、日常的なものを好奇心と愛情にあふれるまなざしで見つめ、観察している増田さんの姿が目に浮かぶ。
観察されたものたちは増田さんというフィルターを通し、ユーモアを効かせて表現され、器という形をとって今日も生み出されている。
 
良平さんが明るい笑顔で語っていた、地面のような器にお目にかかれる日が待ち遠しい。
 

文・仲原綾子 写真・中井雅代

 
増田良平
陶器ますだ
八重瀬町東風平904
090-9784-6282
*お越しの際は事前にご連絡ください。
*作品は陶・よかりよmofgmona no zakka(モフモナノザッカ)ten(テン)などのセレクトショップでも取扱っています。

 


 

NAKAI

河童
(新潮文庫) 芥川龍之介・著 新潮社 ¥420/OMAR BOOKS
 
冬の夜は静かで深い。いつまでもずっと続きそうな気がする。
だから夏よりも、就寝前に本を読むことが多い。一杯の寝酒代わりに。それには短編小説が丁度いい。
長いミステリーも捨てがたいけれど、それだと続きが気になって夜更かしし過ぎたり変に頭が冴えて眠れなくなる。
その点、短編だと好きなところで読み終えることが出来るし、ページの順番通りでなくても読みたいところから読み始めることが出来る。
  
そんな短編小説の魅力について今回はご紹介します。
 
短編小説が苦手という話をよく聞く。
その理由としては、よく分らない終わり方だから、とか物足りないといったようなものが多い。
そんな人にいや、短編て面白いんですよとついついすすめてしまう。
 
ずいぶん前にロバート・アルトマン監督の『ショート・カッツ』という映画があった。
レイモンド・カーヴァーという優れた短編をいくつも残した作家の作品を題材に、一つ一つの短編をパズルのようにばらしてそれを独自につなぎ合わせた映画で、意外な終わり方を見せる。
 
それはそれですごく面白かった。
それは長編と比べると短編小説が「開かれている」からだと思う。
最後の結末は読者に委ねられる割合が大きい。想像の余地が残されている。
それはつまりいろんな読み方があっていいということ。
何で好きなんだろう、と考えてみたらその広がりのある、自由さに惹かれる。
 
また、いい短編作品を読んだ後の余韻は格別。
作家ごとの違いを読み比べるのも楽しい。短いからこそ作品の中に作家のエッセンスがぎゅっと濃縮されている。
 
そこで短編初心者におすすめしたいのが古典。いわゆる文豪と言われる作家たちが残した作品群。
例えば芥川龍之介の短編は誰もが学生の頃に通ってきているはず。
でも大人になっていろんな経験を得て彼の作品を読むと、あの頃読んだ作品と同じだとは思えないほど二倍も三倍も味わい深く感じられると思う。
 
もうしばらく続く寒い夜に、短くも豊かな物語に浸ってみてはどうでしょう?


OMAR BOOKS 川端明美




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